Interview

「日本初〇〇」の発想法~システムインテグレータ創業者に聞く(前)

東芝、住商情報システム(現・SCSK)を経て、1995年にソフトウエア製品ベンダーの株式会社システムインテグレータ(2006年に東証マザーズ、2014年に東証一部上場)を設立した梅田弘之氏(現在、同社・代表取締役会長CCO製品企画室担当)。その過程で「日本初」のERP※1パッケージ※2やECサイト構築ソフトをはじめ数々の自社プロダクトを世に送り出されてきました※3
ゼロからの受託(請負)開発が当たり前のIT業界にあって、自社パッケージ開発にこだわり続けてきた梅田氏に、前半では新しいプロダクトの発想法について伺いました。

聞き手:メディア「事業革新」編集長 小林麻理
構成:工藤 淳

※1 ERPはEnterprise Resource Planning(企業資源計画)の略で、一般に会計・販売・人事給与など、経営に関わる基幹システムのことを指します。
※2 「パッケージ」とは、顧客ごとに要件を聞いてゼロからソフトウエアを開発するのではなく、すでにできあがったソフトウエアを製品として提供するものです。
※3  プロジェクト管理システム「OBPM Neo(導入実績220社)」、統合型Web-ERP「GRANDIT(同1300社)」、開発支援ツール「SI Object Browser(46万ユーザー)」など様々なプロダクトがあります。

技術トレンドの変化をとらえた「日本初」パッケージ

――梅田会長は日本初のERPパッケージ「Pro Active」そして日本初のECサイト構築パッケージ「SI Web Shopping」を開発されています。その経緯や着目点について教えてください。

「Pro Active」を開発したのは、創業前、住商情報システム(現・SCSK)に勤めていた時です。その当時はコンピュータシステムがメインフレームからクライアントサーバー方式へと移行する頃※4。そこで、その方式に適した(会計・販売・人事給与などの基幹業務処理を統合型で実行できる)ERPパッケージの開発を思いついたのです。もともと、転職して7年で起業することを目指していたのですが、その開発・販売の成功が後押しとなって目標より1年早い、37歳で独立をしました。

また、独立した1995年頃はインターネット時代の幕明けという時期でしたが、今のようにインターネットで基幹業務を実施するという時代でもありませんでした※5、そこでこれから活発になりそうな「電子商取引(EC)」をパッケージシステムとして提供することを考えついたのです。そうして、システムインテグレータ設立の翌年にリリースしたのが「SI Web Shopping」です。

※4 コンピュータの性能向上と価格低下とともに、それまで主流だった集中的に大量の情報を処理する大型コンピュータ(メインフレーム)を中心にしたシステム方式から、(小型のコンピュータである)サーバーとPCを組み合わせてシステムを構成する(クライアントサーバー)方式への移行が進みました。
※5  回線速度・容量の飛躍的に向上とともにインターネットを通じて様々なサービスを提供するクラウドコンピューティング時代へのスイッチを予測・提示した「The Big SWITCH」(ニコラス・G・カー著。翻訳書名は『クラウド化する世界』)が刊行されたのが2008年のことです。

未来に目を向けるための「5年後の〇〇」

――「SI Web Shopping」の導入実績は1100社とのこと、梅田会長の先見の明を実感します。ただ通常、時代を先取りしながら、新しくて売れるプロダクトを思いつくのは難しいと思います。コツはありますか。

新しくてしかも売れるプロダクトを発想するには、現在のすぐ延長線上でなくて、5年後くらいのイメージを頭に描いてアイデアを出していくことがポイントですね。よくお勧めするのが「5年後の〇〇」という発想法です。〇〇にいれるものは会社や組織、仕事の仕方や生活に関することなど、なんでもいいです。

「あったらすごい」とか、何年か先に「こんなことができたらすごい」みたいな想像力を働かせる。若い人にも、そういうアドバイスをよくしています。というのも、社内でパッケージアイデアコンテストを開催したり、MIJS※6のアイデア創出に関するイベントに社員を参加させたりしているのですが、そうした活動のなかでは「これはすでに世の中にあるよね」というアイデアしか出てこないことが多いのです。

おそらく人間は「未来」を想像するのが、苦手なのだと思います。ドラマの題材も圧倒的に未来より過去のものが多いですよね。ですから、新しいプロダクトを考える人というのは未来を想像する「クセ」を意識して身に必要があると考えています。

もちろん、単純に未来に向けた発想すればよい、というわけではなく、「市場性があること」も必要なのがプロダクト開発の難しいところです。2021年にリリースしたアイデア創出プラットフォーム「IDEA GARDEN」やカスタマーサクセス支援サービス「VOICE TICKETS」は、13年間の試行錯誤のすえ(梅田会長ではなく)社員発案の製品としてやっとリリースできたものです。
 そして、この「IDEA GARDEN」には、「5年後の〇〇」をはじめとした僕のアイデア発想のエッセンスも盛り込んでいます。

※6  MIJS(Made In Japan Software)は2005年に、国内の主要なソフトウエア製品ベンダーが集まり結成、「ソフトウエアで日本を強くする」ことを目的に活動している団体です。

派遣はせず、自社プロダクトにこだわる

――そうしたお話からも自社プロダクト開発の難しさを実感します。さらにゼロからの受託(請負)開発はもちろん客先常駐も当たり前というIT業界にあって、自社プロダクトへこだわり続けられたのはどうしてでしょうか。

社員の常駐派遣をしないことは、創業時から決めていたことです。その大きな理由の1つが、(常駐派遣をすると)社員の育成が自社のコントロールの外に置かれてしまうからです。

よく言われることですが、創業者にとって会社は自分の子供みたいなもので、やはり良い子に育ってほしい。そうなれば社員にはやはりちゃんと勉強して成長できる環境を与えたいし、創業者自身がやりたくないことは、社員にもやらせたくないと考えます。もしやらせたとすると、社員自身の勉強しようというモチベーションが下がってしまって、当然会社も成長しなくなってしまいます。 

一方、設立当初に自社製品も資金もないなかで常駐派遣を請けているうちに、それが当たり前みたいになってしまうことも多いかもしれません。

私自身も設立から1年くらいはクライアント企業にコンサルという形で常駐して、夜や休日に自社のパッケージを開発していた時期がありました。自社開発に専念できるようになったのは、「SI Web Shopping」をリリースしてからです。

資金や時間の制限があるなかで、私がパッケージ開発にこだわり続けることができたのは、新卒で働いた会社がメーカーだったのもあると思います。もともと販売する商品がある会社にいたから「自分たちの商品がないのは寂しいし、常駐や(ゼロから要件定義するような)受託開発だと顧客に振り回されてばかりになるな」と思ってしまうわけです。

そういうこだわりがあったからこそ、「やっぱり自社商品を作ろう!」という一念発起につながりましたし、創業した会社のビジネスの成長にもつなげられたと思っています。

――自社プロダクト開発には。現状に流されないための強い想いが必要なのだと実感させられます。後半では、自社プロダクトとセットで必要な「営業」のコツなどを伺いながら、新規事業に挑戦する際の心構えをうかがっていきます。

●梅田弘之氏プロフィール
東芝、住商情報システム(現・SCSK)を経て1995年に株式会社システムインテグレータを設立(2006年に東証マザーズ、2014年に東証一部上場)。現在、同社・代表取締役会長CCO製品企画室担当。同社にてECパッケージ「SI Web Shopping(導入実績1100社)」のほか、プロジェクト管理システム「OBPM Neo(同220社)」、統合型Web-ERP「GRANDIT(同1300社)」(コンソーシアム方式で開発)、開発支援ツール「SI Object Browser」(46万ユーザー)など様々なプロダクトをリリースしている。また、『グラス片手にデータベース設計(翔泳社)』シリーズ、『実践!プロジェクト管理入門(翔泳社)』『エンジニアなら知っておきたいAIのキホン(インプレス)』など22冊の著書がある。

 

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