世界を意識して新事業に挑戦したい・しようという際に「英語の壁」を感じてしまうことはありませんか。そこで、挫折しがちな英語学習のコツについて、創刊1987年、今年35周年を迎えた英語学習誌『CNN ENGLISH EXPRESS』※(以下『CNN EE』)編集長の竹内佑介氏にお伺いしました。
聞き手・構成:メディア「事業革新」編集長 小林 麻理
※『CNN ENGLISH EXPRESS』は、全世界20億人に情報を届ける国際放送「CNN」のニュースを題材とした月刊英語学習誌(朝日出版社・刊)。
日本は111か国中80位、英語が苦手な原因は?
―英語能力に関して、日本は111か国中80位という調査結果もあるように※英語に苦手意識をもっている日本人は多いと思います。どのような原因が考えられますか。
様々な要因がある中で最も大きな原因の1つが、英語を学習する時間が少ないということだと思います。
米国務省の機関がまとめたデータによると、英語を母国語としているアメリカ人が日本語を習得するのに必要な時間が「2200時間」だと言います。難易度の差があるにしろ、日本人が英語を習得するのにもこの「2200時間」というのは1つの目安になると思います。
それに対し日本では中学・高校で6年間勉強するといっても、英語の時間は週に数時間程度です。また授業が文法や読むことに重点を置いているため、「聴く(リスニング)」「話す(スピーキング)」の時間は少なくなる傾向があります。
すると、コミュニケーションツールとしての「言語」で大切な「聴いて話す」という部分の苦手意識はどうしても強くなってしまうのではないでしょうか。
※210万人を調査対象としたEF EPIの2022年ランキング
生の音声に慣れ、ストーリーで言葉を覚える
―たしかに週に3時間×6年を単純計算すると936時間、まずはもっと学習が必要で、「聴く」のつまずきを克服する必要もありますね。その点、以前目にしたビジネスパーソンの英語習得法に関する雑誌特集※の中で「『CNN EE』だけでリスニング力が大幅に強化された」という声が紹介されていたように、貴誌を利用される方も多いのではないでしょうか。
そうした声をいただけるのは嬉しいですね。『CNN EE』は、1987年創刊時から、カセット、CD、アプリ(リスニング・トレーナー)とカタチを変えながら、「生の音声を聴いてもらう」ということに、とてもこだわってきましたから。
現在、当誌が「黄金の学習ルーティン」としておすすめしている利用法が①聴く、②読む、③理解、④音読、⑤発信の5つのステップです。特に「①聴く」という部分は、通勤中などの移動やスキマ時間を利用してできるのが良い点です。そして、様々な「生」の英語を何度も繰り返し聴くことが、リスニング力アップに直結します。
また「②読む」「③理解する」を通じて「語彙」が増えていきます。言葉の数は膨大にありますから、単語帳で1つずつ覚えていくよりは、記事というストーリーを読む中で理解するほうが、言葉の意味が定着しやすいと思います。
内容を理解した英文をネイティブの音声を見本に「④音読」すると、正しい発音やアクセント、イントネーションが身につき、英語を英語の語順通り理解できるようになるのでリスニング力も上がります。おすすめは「シャドーイング」で、流れてくる言葉のあとから影のように発音する方法です。そして「⑤発信」する力を上げるための工夫は当誌が最近特に力を入れていることです。
たとえば、英語だけを見て日本語を、日本語だけを見て英語を瞬間的に言えるようになるまで繰り返す訓練法、「クイック・レスポンス」がしやすいよう、語彙コーナーの英語を赤シートで隠せるような文字色にしたり、本誌のニュース記事の中や別冊付録の問題集で、「反訳トレーニング」と呼ばれる、日本語訳を見て、もとの英文に変換するトレーニングが行えるコーナーを設けたりしています。これらの方法を取り入れることで、話し相手がいなくても一人で発信力を鍛えることができます。
※週刊ダイヤモンド2016年12/10月号「商社マン50人が明かす門外不出の『英語』習得法」より
趣味、ビジネス、交流会…、学ぶ目的を設定する
―様々な学習の工夫がされているのですね。一方で、英語というのは、学習を続けるモチベーションの維持というところも高いハードルがあると思います。どうすればいいでしょうか。
やはり何かしら「目的」があることが大切だと思います。私自身、英語を勉強したいという最初の大きなモチベーションは、来日したアーティストが何を言っているのかを理解したい、というものでした。
語学は(反復・鍛えるという点などから)「スポーツ」に例えられることも多いですが、私は「音楽」によく例えます。ギターを習得するという際に、弾きたい曲があれば、基礎となるコードの練習も苦にならなくなるところが英語学習に似ていると思うのです。
また、好きな英語の「歌」があれば、その歌詞を理解したいと思うし、そのための学習過程は楽しいものになるはずです。さらに好きな歌を歌うためには、“見本”である歌を聴きながら、正しい英語の発音を身につけることも必要になってきますよね。
―趣味の中で英語を理解したい、身につけたいという「目的」があると継続しやすいですね。ビジネスにおいても「やりたい・しなければならない」何かが先にあれば、追い込んで学習ができそうです。逆に、直近で具体的な目的がない場合は何か対策はありますか。
そうした場合、オンライン、オフラインにかかわらず、英語学習グループに参加したり、交流会などを活用されるのも、互いに励みになって継続する力になるかと思います。たとえば、日本最大級の英語コミュニティVital Japanでは、英語で討論できるような上級者だけでなく、初・中級者が交流できる場も提供されています。
「英語力が上がった!」と実感することでモチベーションを維持する、ということからTOEICなどのテストを活用するのも手です。当社でも昨年からCNN GLENTSという、オンラインの英語力測定テストを始めました。
このテストはCNNで実際に放送されたニュースが素材になっており、また、グローバルで活躍する人材に求められる国際教養力を問う問題が出題されるという点が最大の特徴です。世界の最新事情を届けるCNNニュースから問題が作成されているので、世界の今を理解するために必要な英語力を測定することができます。また、一般的な英語力だけでなく、「国際教養問題」を通じて、世界の人々と円滑にコミュニケーションを図る上で必須の異文化理解力を測定できるテストになっています。
作られた英語ではなく、リアルな英語を使ったテストなので、より「実践的に使える英語力」「世界で通じる本物の英語力」を測れることから、海外展開を行っている企業の研修にも使われています。
『CNN EE』の読者にとっては、CNN GLENTSを定期的に受けることによって、日頃、雑誌で身につけた英語力を試すことができます。このテストを通じて、自身の英語力の向上を実感できたり、弱点を知ることもできるので、CNN GLENTSを英語を学び続けるモチベーションとして利用するのも良いかと思います。
このテストは、英語を単に学ぶということだけではなく、英語を学ぶことを通して海外の文化や最新事情を伝えるという『CNN EE』の創刊からの精神を反映したものとも言えます。
言語とともに、世界の文化・情勢を届ける
―『CNN EE』は英語の勉強になるだけなく、世界情勢を知ることができるのが魅力ですね。ニュースの選定基準はどのようなものがあるのでしょうか。
世界の文化や最先端の情報を提供する、ということを大方針として、国やテーマの多様性、話されている英語の種類(アメリカ英語、イギリス英語、オーストラリア英語など)に配慮しながら、「面白い」「興味がある」と思ってもらえるようなニュースを選定するように心がけています。素材の面白さが、学習継続のモチベーションとなっている、という読者からの声をよく聞きます。
私が15年強の編集部キャリアで最も印象に残っているのはオバマ氏の広島訪問時のスピーチですね。内容はもちろんのこと、2016年5月27日のスピーチを題材とした学習内容を直近の6月6日発売号に載せたスピード感にも大きな反響をいただきました。
―そうしたエピソードには、貴誌が英語の「学習誌」だけでなく「情報誌」でもあるということが感じられます。
はい、時代の「旬」をお届けできるのが雑誌の良いところで、イーロン・マスク氏やジェフ・ベゾス氏といった注目企業のトップや、英国初のアジア系の首相として就任したリシ・スナク氏やフィギュアスケーターの羽生結弦氏、メジャーリーガーの大谷翔平選手など、世界が注目する政治家やスポーツ選手のニュースやスピーチなども随時扱っています。
また、当社では年2回発行の『CNNニュース・リスニング』や、語学書の新シリーズである「EE BOOKS」を刊行しています(『give・getとtake・make 英語のすべてはこれで決まる』、『エリザベス女王 スピーチ&レガシー』の他、続刊予定多数)が、これらの書籍は『CNN EE』から生まれているので、雑誌の存在は大きいと考えていますし、これからも英語学習に役立つ魅力的なコンテンツを届け続けたいと思っています。
「完璧」を求めない姿勢が英語力上達の近道
―世界を意識して新事業に挑戦するうえでも、『CNN EE』の情報は役立ちそうですね。さてここまで、学習法、モチベーション維持法についてお伺いしてきましたが、最後に英語で実際にコミュニケーションする際の心構えのようなものがあれば教えてください。
実践で大切なのは「完璧」を求めないことだと思います。私が以前アメリカへ留学した際に感じたのは、日本人は文法の完璧さを気にしすぎるということです。
三単現のsが抜けていたらどうしよう、といった細かいことを気にして、なかなか話せない日本人は多いように思います。でも、まわりの外国人はそんなことを気にせず大声でガンガン話をしているんですよね。そして話をする中で英語もどんどん上達していく。
さきほどの音楽の例で言えば、最初から完璧に弾こうと思わずに、まずは弾きたい曲を見つけて弾いてみることが上達の近道だということです。
「何を言いたいか」という中身がきちんとあれば、完璧な文法でなくても相手に伝わるものです。ですから、「上手に話せているだろうか」を気にしすぎずに話すことが大切だと思います。
―最初から「完璧」を求めるよりも、やってみながら上達することが大切というお話は、新事業に挑む際の心構えに通じるように感じます。そして私も今回のお話を参考に、英語の学習をもう1段すすめてみようという気持ちになりました。ありがとうございました!