1985年に大学卒業後、編集プロダクション・出版社の広告部門など、会社員として5社を経験し1998年に独立。現在に至る36年間、編集者やライターという立場でPR誌や広告記事といったクライアントがいる制作の仕事に携わってきたのが事業革新・制作部シニアエディターの工藤淳です。工藤のこれまでのキャリアとそこで築かれた仕事哲学とはどのようなものなのかを聞きました。
聞き手・構成:MEDIA「事業革新」編集長 小林麻理
「自分よがり」の作品づくりはしない
―翔泳社に在籍していた私が工藤さんに出会ったのは2006年頃です。工藤さんはその頃すでにIT業界が主戦場、という印象でしたが、それより前に関わられてきた業種は様々ですね。
IT業界だけでなく、保険、自動車、楽器業界まで……携わった業種・業界は今にいたるまで様々です。一貫しているのは36年間、クライアントがいる制作物を中心に編集者やライターというキャリアを歩んできたということです。
広告をはじめとしたクライアントがいる制作物の編集者は、一般書籍や雑誌の編集者に比べて「下に見られる」と引け目を感じるときもありました。
でもそのキャリアが10年を超えたころから、逆にそれも「専門性」だと捉え、そのスキルを伸ばしていこうと考えるようになりました。
―専門性を持ったプロとしてどのようなだわりを持っていますか?
まず、制作の一連のプロセスで、関係者としっかりと連携しながら、段取りをすること。特に後工程のスケジュールをきちんと考慮して進めるようにしています。
これは当たり前の話なのですが、自分が若いころムチャをお願いしてしまった印刷所の社長から「外注を泣かせりゃいいってもんじゃないんだよ!」と怒られて以来、特に気をつけています。
同様に、写植屋の先輩職人に「こんな日本語はないよ!」と怒られたこともあります。「きちんとした日本語を書く」のもプロとしては当たり前のこと。でも、こうした「当たり前のこと」を地道にやる大切さを、こういう昔堅気の先輩たちから、すごく教えてもらいました。
そしてなにより、プロとしてのこだわりは、品質の高い原稿や制作物をクライアントに納品することです。品質の高い原稿とは、決して自分よがりの「作品」ではなく「クライアントの要件を満たす」原稿のことです。
クライアントの立場で「良さを伝える」方法を考える
―クライアント要件の主なものは「製品の価値を伝える」ということですよね。ただ「自社製品をアピールする」ことが、あまり得意ではない日本企業は多いように感じています。取材で「よそと比べるとうちはたいしたことない」と謙遜からはいられる担当者の方もいらっしゃいます。
背景として、日本では「謙遜」が美徳という文化的な要因もあるような気がします。また、ネガティブな事は指摘される前に、自分で言ってしまおうという意識もあるかもしれませんね。
たとえば「うちの製品は(他社と比べて)高いと思う」ということを、ことさら強調される担当者の方はいらっしゃいます。
そうした際は「価格」が先でなく「価値がある」ということをしっかり伝えましょう、とお話しています。自分から見たら、〇×の部分はすごく魅力的だし、読者(見込み顧客)に届きやすい価値だと思う、といったアドバイスをすることもあります。
こうしたクライアントの立場にたって「製品の良さ」を考えたり、伝える方法を提案するということは、広告に関わる編集者やライターの大事な役割だと考えています。そのためにも「下調べ」は欠かせません。
でも、最近はそういう「下調べ」をしないで行く編集者やライターがいるのかもしれません。僕が印象に残っているのは某ベンダーのデータベース担当者に会った際、開口一番「うちの製品『〇〇』は知らないでしょ?」と自虐的に言われたときです。もちろん取材に行く前に下調べをしているわけですから、知らないわけはないのに(苦笑)。
鐘の音色は打ち手によって異なる
―「取材とは準備である」というのは、私が編集記者として最初に教わったことの1つです。そして「鐘の音色は打ち手によって異なる」と言われました。
はい、最低限、相手のことを知らないと「いい話、深い話」というのは引き出せないものです。IT関係など、一般のビジネスマンには理解されづらい話が多い内容だとなおさらです。
自虐的なことを言う人ほど、実は「製品愛」に満ちているということもよくあるものです。さきほどの例で言えば、「データベースってなんですか?」ではなくて、ロールバックのタイミングやセル単位の更新は?といったくらいまで掘り下げて聞いていくうちに、相手の様子は変わってきます。
「この様子なら、ある程度の専門用語を使っても大丈夫」と安心してもらうとともに、「最低限の勉強をしてくるだけの意欲はあるな」という信頼感を得ることができるからです。
そのためにも、業界の人がよく使っている専門用語やキーワードは押さえておくのは大切だと思いますね。もちろんいくら勉強していても、自分の知識をひけらかすということなく「身の程をわきまえている」という姿勢でいることも大事です。
―そのとおりですね。そして相手の性格、立場などによっても話やすい口調や質問の仕方なども違いますよね。
はい、1~2時間という短時間で、それを素早くよみとって取材をしっかりと進めていくようになるには、やはり「場数」も必要だと思います。
試行錯誤の積み重ねで蓄積されたスキル
―「場数」という言葉をこの道36年というキャリアの工藤さんから聞くと、重みを感じます。
36年間、今でいうブラック職場で仕事をしたり、フリーランスになってからも馬車馬のように仕事の数をこなしてきたけど、ただの反復じゃなくて試行錯誤してきたからこそ、「スキル」となって、自分の血肉になったように思います。でも、これからは、もう少し余裕を持って仕事をしたいというのも正直なところです。
たとえば、今までは時間の制約で「ここまでできれば合格点」と割切っていたのを、もう少しじっくり考えて品質を上げるといった仕事の仕方に変えていきたいですね。
―その気持ち、よくわかります。「ここをもっとこう書いたほうが、伝わりやすいのではないか」と検討を重ねる作業は時間がかかりますからね。
そして、ただの反復ではなく、検討を重ねながらクライアントごとにオンリー1を提供するのが、コンテンツ制作の大変さでもあり、だいご味でもあると考えています。
―最後に「事業革新」が提供するオウンドメディア構築をはじめとしたクライアント向けサービスの「編集者」としての抱負を改めてお話いただければと思います。
「事業革新」の一員として、今日お話したような自分の人生で培ってきた制作スキルをしっかりと提供し、クライアントのお役に立ちたいと思います。
―はい!頼りにしておりますので、ぜひよろしくお願いします。