Interview

その事業の先に自分が変えたい世界はあるのか~Plug and Play Japan-後編

Plug and Playは世界18か国30拠点以上で展開するベンチャーキャピタル(VC)・アクセラレーターです。VCとしてはDropboxやPayPalなど多数のユニコーン企業を輩出、アクセラレーターとしても2020年単年で2000社以上のスタートアップの事業化・事業成長を支援した実績を誇ります。

そしてPlug and Playの日本支社として、日本の大手企業と国内外のスタートアップの共創を支援し、日本から世界・世界から日本へと可能性を広げ、グローバル規模で時代をリードする企業が多数輩出されるイノベーションプラットフォームの構築を目指しているのがPlug and Play Japanです。今回は、同社で執行役員・COOを務める内木遼氏に、新規事業に挑戦する人と企業を応援する立場からお話いただいています。後半は注目分野や内木COOご自身の挑戦談を交え、「新規事業に取り組むにあたって必要なこと」について伺いました。

前編はこちら
日本のオープンイノベーション環境は改善した~Plug and Play Japan-前編

聞き手/構成:メディア「事業革新」編集長 小林麻理

「N対N」のマッチングでイノベーションを加速する

―貴社では「Fintech」や「Mobility」「Health」といった9つのカテゴリー※1で支援を実施されています。目立った動きある分野や注目の事例があれば教えてください。

前半でお話したように、様々な分野のデジタル化が広がり各カテゴリーで新しい事業が次々と立ち上がっています。ユーザーがリアルの店舗にわざわざ行く行動様式が変化していますから、(店舗ではなく)アプリなどを起点としたユーザー行動に合わせたサービスにシフトするという大きな流れの中にあるのでしょう。

何度もディーラーに足を運んで購買決定されるのが当たり前の高級自動車も「事前にオンライン情報を入念にチェックし、試乗を1度しただけで契約に至るお客様が増えてきた」という話を自動車会社の方から最近、聞きました。業種問わず、こうした購買行動の変化に対応していかなければいけないということです。

そして、もっとも注目度が高くなった分野は「Health」です。遠隔医療や簡易迅速診断など大きなテーマもありますし、海外では、COVID-19を診断する様々な技術がスタートアップから生まれています。

Health分野で当社が支援した事例では、部品メーカーのフジクラとスタートアップのSleep Shepherdが協業による、良質な睡眠を助けるウエアブル端末の開発があります※2。のちに広告代理店さんも加わり、結果3つの企業が協業した好事例と言えます。

今後も、我々が「N対N」と呼んでいる、複数の大企業と複数のスタートアップの協業支援に力をいれていきたいと考えています。

※1「Fintech」「Insurtech」「Mobility」「IoT」「Brand & Retail」「Health」「Energy」「New Materials」「Smart Cities」の9カテゴリー。

※2  協業事例:https://japan.plugandplaytechcenter.com/casestudy-sleeptech/

新規事業の挫折は本気の「熱量」が足りなかったから

―なかでも「Smart Cities」は、扱うテーマが大きく、複数の業種が関わりそうな分野ですね。

「Smart Cities」では様々な業界の人が協力して協創型のプログラムができるのではないかと期待しています。また、自分が学生時代「まちづくり」ゼミを専攻していましたので個人的にも「Smart Cities」は関心が高い分野です。

―「まちづくり」を専攻していらっしゃったのですね。そこから現職に至るまでの経緯について教えていただけますか?

自分が死んでも残る仕事に関わりたいという気持ちがあり、新卒では国内インフラの会社に入社しました。海外事業に興味を持ったため留学し、現在のキャリアのベースを築いたという経緯があります。

―社会人になってからのアメリカ留学は、大きな挑戦ですね。

アメリカ留学は自分のキャリアを大きく変えるための挑戦でした。そのなかでも特にいまの自分に影響を与えた挑戦と言えば、ニューヨークの大学院に在学時、シェアリングビジネスに関する新規事業の立ち上げを志したことです。

その立ち上げの資金調達のため、複数のベンチャーキャピタルにピッチしたのですが、散々な言われようでした。様々なアドバイスをもらいながら考えた末、新規事業の立ち上げは断念。何か自分を変えなければと思い、シリコンバレーに渡りました。

その後、ベンチャーやイノベーション支援の仕事を経て当社に参画、いまに至ります。現在の仕事はイノベーション創出につながるスタートアップエコシステムというソフト面のインフラ整備だと捉え、やりがいを持って取り組んでいます。

―現在はピッチを評価する側の立場でいらっしゃいます。ピッチを実施していた当時のご自分にアドバイスをするとすれば、どんなものですか?

「その事業の先に、自分が変えたい世界はあるのか」と問います。やはり当時自分がそれを強く思い描けなかったことが、立ち上げに至れなかった最大の原因です。

「新規事業を立ち上げたい」「起業したい」が先にあって、その先の変えたい何かに対する強い思いがなかったから、本気の「熱量」がでなかったのだと思います。

「未来の糧になる」失敗を許容する文化づくりを

―成功途上で失敗する可能性のある新規事業には、厳しい意見と冷ややかな目線はつきものかと思います。そのなかで「熱量」を持ち続けることはとても難しいですね。

逆に、「自分が変えたいこと・成し遂げたいこと」を実現する、新規事業に対する本気の「熱量」があれば、厳しい意見や冷ややかな目線にも耐えられる、というより気にならなくなると思います。その本気の「熱量」がなかったことが、僕の新規事業立ちあげが失敗した最大の理由ということです。

―私達も目下、会社を立ち上げ新規事業に取り組んでいる最中ですので、内木COOの言葉が大変刺さります。改めて新規事業の挑戦する人や企業へ向けてメッセージをお願いします。

新規事業は立ち上げ自体も立ち上げ後も、失敗はつきものです。ですから失敗を恐れない、というマインドが前提として必要になります。だからこそ、個人としても、企業としても、失敗を許容する文化をつくっていただきたいです。本気で取り組んだ後の失敗は必ず未来の糧になります。

そして特に僕個人としては、どんな立場であっても「自分自身が変えたいこと・成し遂げたいこと」といった「個人の想い」とつなげて新規事業に取り組んでいただきたいというふうに考えています。それが、新規事業に対する「熱量」につながるし、ひいては事業の成果にも、個人の成長にもつながると思うからです。

我々は、そうした新規事業に対する本気の「熱量」にこたえられるよう寄り添い、支援していきます。

―内木COOのお話を聞き、私達も本気の「熱量」をもって新事業に挑戦する気持ちを新たにしました。今回はMEDIA「事業革新」立ち上げというタイミングでのインタビューにご協力いただき、改めてありがとうございました。

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