Interview

出島戦略で大企業のジレンマを解消する~Co-Studio澤田代表に聞く -後編

日本の大手企業で新規事業開発に長年携わってきた澤田真賢氏が2019年に設立、澤田代表自身が直面した「イノベーションのジレンマ」の解決までを視野に新規事業開発を支援しているのがCo-Studio株式会社です。澤田代表に同社の支援スキームと起業の背景・想いについて伺いました。後半は、「出島戦略」と澤田代表の起業理由にもかかわるその誕生背景についてです。

前編はこちら
アイデアは半年でカタチにし社会へ問う~Co-Studio澤田代表に聞く-前編

聞き手・構成:MEDIA「事業革新」編集長 小林麻理

新会社でイノベーションの「非効率」を引き受ける

―貴社で会社設立(Company Creation)の支援をしているのはなぜですか?

簡単に言えば、そのほうがイノベーションを起こしやすいからです。大企業でイノベーションが行き詰まる大きな原因の1つが、大企業の文化や構造とイノベーションの「非効率性」との親和性が低いことです。

イノベーションはプラン修正が前提で、成功率はよくて6割、実際には1割以下ということもあります。これはプラン順守が前提で成功率が高いオペレーションの対極にあると言えます。オペレーション要素が低いほど、成功率は下がる傾向があるからです(下図)

そして不確実性が高いほど、新規事業開発メンバーの事業に対するオーナーシップが必要です。しかし、大企業の「ガバナンス」のカベがメンバーのオーナーシップを阻みます。高いオーナーシップを持つスタートアップ企業とそうではない大企業の共創が難しいのは、その差異があるからです。

その問題の解決策が、当社の「Company Creation」の支援スキームというわけです。まず、新規事業開発のメンバーが原則企業に籍を残しながら、新会社の株とオーナーシップをもちます。そしてその新会社において、既存事業やスタートアップとも共創しながら新規事業に取り組むというものです(下図)。

我々はこれを(インキュベーションを外から実施するという意味で)エクスキュベーションや「出島戦略」と呼んでいます。

出島で優秀な人材の能力を充分に生かす

―「出島」という戦略名に、ガバナンスの強い大企業内において新規事業創出に挑んでいた澤田社長のご苦労がにじみ出ているように感じます。

イノベーションの不確実性や非効率性(無駄)はとくに株主利益を重視する企業では許容されづらい状況にあります。私が会社員として新規時事業開発に従事しているとき、日本企業がもつ技術の先進性や人材の優秀さとともに、それを充分に生かせないもどかしさを強く感じていました。

―既存事業や顧客の存在が大きいほど(既存事業を浸食する恐れや既存顧客の要望にとらわれて新規事業開発に失敗する)「イノベーションのジレンマ」にも直面しやすいでしょうね。

ですから企業の「外」に、自社と共創可能な新会社を設立することがイノベーティブな新規事業開発に効果的なのです。たとえば、直近では、大手製薬企業との共創を経て設立した会社もあります。

そして2019年からこの間、会社設立を含めて様々な業種と規模の企業を支援することができています。また、ウェビナーに予想以上に多くの企業のご参加いただいていることからも、関心の高さと需要を実感しています。

VUCA時代の世代交代で日本企業も「様変わり」する

―貴社サービスへの関心の高まりは、新規事業に対する日本企業の意識の変化とコロナ禍によるその加速を感じます。

VUCA※と呼ばれる時代になり、私は「コロナ禍」と関係のないところでも、新規事業に有利な方向へとビジネス環境は着実に変化していると見ています。

日本の企業内のカルチャーも、世代交代が進むとともに変化しています。たとえば、40代くらいを境に一社・終身雇用で勤めようといった昔ながらの価値観を持つ人が多数派ではなくなっている印象です。

一企業への依存度が高いほど、責任ある立場にあって社内でリスクをとることに抵抗感が大きくなるのはある程度、仕方がありません。一方で、若い世代の価値観では、転職はもちろん、副業・兼業が当たり前です。一企業への依存度が低くなるほど、会社でリスクをとることへの抵抗感は薄れていくはずです。

こうした社内リスクをとることを恐れない人々が多数派となれば、日本の企業のあり方も様変わりするのではないでしょうか。

組織体としても、正解が明確な時代には有効に機能した「管理統制型」ではなく「自律分散型」であることはますます求められるでしょう(下図)。

※Volatility(変動性)・Uncertainty(不確実性)・Complexity(複雑性)・Ambiguity(曖昧性)の頭文字をとった現在の予測しがたい時代を表した言葉。

「引き寄せ」から「ソーシャルグッド」の実現へ

―管理統制型では当たり前な幾重もの承認プロセスも自律分散型では必要なくなりそうです。

これからのビジネスの重要な要素は「共感」です。それは、大企業における「承認」プロセスとはまったく異なるものです。「共感」を軸に活動や情報発信をしていれば、様々な「引き寄せ」が起こり、私達が「ソーシャルグッド(社会善)」と呼んでいる持続的な社会的課題の解決を実現するイノベーションの輪は広がるはずです。

この「ソーシャルグッド」の実現が、私が企業内でカベにぶつかり、自ら会社を興した原点でもあります。だからこそ、私達は「ソーシャルグッド」を実現するイノベーションコミュニティの「一員」として活動していきます。

―『事業革新』は、企業内で新事業開発に奮闘する方を応援したいというところが出発点の1つとなっていますので、貴社の各々の取り組みの必要性や澤田代表の想いに共感することがとても多かったです。お話いただき、ありがとうございました!

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