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正しきによりて滅びてもよし、断じて滅びず~事業革新の精神

合同会社 事業革新の理念、「事業十訓」に込めた想いとともに、そのベースとなった「商売十訓」について説明します。

合同会社事業革新 代表/メディア「事業革新」編集長 小林麻理

「商売十訓」をもとにした「事業十訓」

「事業革新」では、次の「事業十訓」を自身の道しるべとして定めるとともに、新事業に取り組むみなさまに、推奨したいと考えています。

一、提供事業は顧客の目的達成のためにある
二、付加価値の提供に対し適正な対価を得る
三、メンバーの貢献に応じた適正な対価を払う
四、メンバーの得意と自己実現、人生を尊重する
五、事業を継続するに足る適正利潤を確保する
六、法令を順守し、良い取り組みは真似る
七、知恵と挑戦で「オリジナリティ」を追求する
八、事業の発展を社会的価値に結びつける
九、目先の損得より長期的な信頼を大切にする
十、提供事業と自身の仕事に誇りを持つ

この「事業十訓」は、商業界(1948年~2020年)の創設者・倉本長治が提唱した理念(商業界精神)の軸となる「商売十訓」をもとにしています。商業界は、戦後の混乱期、商人に道徳と商売の技術を学ぶ場を提供した出版社で、私が過去に在籍していた会社です。

イオン、ダイエーなど多くの(後の)大規模チェーンストアの創業者が学びの場として集った宿泊型の「商業界ゼミナール」には最盛期には2000人以上が参加しました。

▲2003年・第71回商業界ゼミナールの様子。

「商売十訓」の内容は次のようなものです。

一、損得より先きに善悪を考えよう
二、創意を尊びつつ良い事は真似ろ
三、お客に有利な商いを毎日続けよ
四、愛と真実で適正利潤を確保せよ
五、欠損は社会の為にも不善と悟れ
六、お互いに知恵と力を合せて働け
七、店の発展を社会の幸福と信ぜよ
八、公正で公平な社会的活動を行え
九、文化のために経営を合理化せよ
十、正しく生きる商人に誇りを持て

私が商業界に在籍していた2006年、社内有志を募り、商業界精神をグッズにして販売したことがあります(下写真)。用意した湯飲み200個は完売、Tシャツは2日で300枚売れました。

2000年代にはいっても、この「商業界精神」は古くない(むしろ必要なものだ)、と実感したものです。

▲2006年、商業界ゼミ会場でグッズ販売の準備をする20代の頃の小林(写真・左)

「店は客のためにあり店員とともに栄える」を現代へ

「事業十訓」は「商売」を「事業」に置き換え、私なりの解釈を加えながら、いまの時代にあわせて、よりわかりやすい内容にしました。次から「事業十訓」の内容について、ポイントを説明していきます。

一、提供事業は顧客の目的達成のためにある

商売十訓の「お客に有利な商いを毎日続けよ」にあたる部分で、商業界精神の幹とも言える「店は客のためにある」を言い換えた部分です。

これが意味することは「お客様はエライ」「お客様の言うことはなんでも聞くべきだ」ということでは決してありません。店も事業もお金を払って利用していただけるお客がいなくては、成り立たない、ということです。

二、付加価値の提供に対し適正な対価を得る

言葉通り「付加価値を提供する」ということを前提に、立場に関係なく「付加価値」に対する「適正な対価」を得るということです。これは「付加価値」に対して「適正な対価が支払われていない」という強い問題意識からきています。

三、メンバーの貢献に応じた適正な対価を払う

前述の「店はお客のためにある」に続く言葉が「店員とともに栄える」です。その意味を、従業員にとって大切な視点として「対価(第3条)」と「働き方(第4条)」にわけて表現しました。

仕事に対して、適正な対価を払うということは、身分制や年齢で給与を払うという慣習が根付いてしまった日本の会社においては当たり前ではありません。詳細な議論や論点は「法令×HRM 同一労働同一賃金研究所※1」に譲るとして、ここでは「貢献」ということについて説明します。これは「成果」ではないということがポイントです。

事業においては、目に見える「成果」(特に売上)に注目がいきがちですが、会社を含めチームで仕事をする場合、大切なのはチーム全体への「貢献」です。その点をふまえ、第3条は、メンバーの「貢献」に応じた適正な対価を支払うとしました。

四、メンバーの得意と自己実現、人生を尊重する

メンバーにとって幸せな働き方とは何かーという視点から「得意を生かせる」、「自己実現を目指せる」、そして「人生(ライフ)が充実する」の3つが尊重されることが大切だという考えを明示しました。

五、事業を継続するに足る適正利潤を確保する

適正利潤とは何かは、「適正価格」とともに難しい問題です。そこで事業10訓では、「事業を継続するに足ること」と定義しました。

六、法令を順守し、良い取り組みは真似る

これは「創意を尊びつつ良いことは真似ろ」をもとにしたものです。良い取り組みはどんどん「真似る」ことが、後進である私たちがスピードをもって成長するための一番の近道です。

一方、真似るといっても「著作権・特許権など、法律で保護された各種権利の侵害」は許されません。そのことを、著作権法で保護されたコンテンツを扱う事業革新として明示するために「法令を順守し」という文言をいれました。

七、知恵と挑戦で「オリジナリティ」を追求する

「オリジナリティ」はあったほうがいいという価値観は、前例主義が強い大組織では通用しません。「ほかは(どこが)やってるの?」というのは日本企業でもっとも聞かれることばではないでしょうか。逆をいうと挑戦者にしか「オリジナリティ」は追求できないのです。

八、事業の発展を社会的価値に結びつける

SDGsなどが一般的に唱えられるようになった昨今「社会的価値」の大切さの概念は浸透しているように思います。そして、自身が関わる事業が社会的価値に結び付けて考えられると、より一層、事業の発展に寄与しようという気持ちの原動力になるということもおわかりいただけると思います。

九、目先の損得より長期的な信頼を大切にする

商売十訓の冒頭「損得より先きに善悪を考えよう」にあたる部分です。「善悪」すらも判断が難しい現在、「長期的な信頼を大切にする」ということに置き換え「損得よりも守るべきもの」として定義しました。

十、提供事業と自身の仕事に誇りを持つ

この10条は商売十訓のさいごを締めくくる「正しく生きる商人に誇りを持て」をもとにしています。そして、「正しさや善悪」を判断する際に必要な軸として、9条で示した「他者から、長期的な信頼を得る」という軸とともに「自分自身が誇りを持てる」という軸を、提示したものです。

正しきによりて滅びてもよし、断じて滅びず

十訓は「キレイごとだ」と感じられる方もいるかもしれません。しかし混沌とした時代※2、この十訓を守る事業こそが生き残ると私は信じています。

商業界には次のような言葉も伝えられていました。「正しきによりて滅ぶる店あれば滅びてもよし、断じて滅びず」(新保民八※3)。

十訓を守ったからといって滅びないとは言い切れません(滅びてもよし)。しかし、10訓を守れなければ、お客と従業員の心は離れ、必然的に滅びるでしょう。それは2020年4月、あれほど日本中の商人を惹きつけた商業界が自らは10訓を守ることができず(内側から腐り)、滅びた(倒産した)ことを見れば明らかです※4

そして2021年8月、私は「断じて滅びず」という想いを胸に、「合同会社 事業革新」の設立とともに「事業十訓」を改めて理念として掲げたいと思います。

※1 同一労働同一賃金は、同一の「労働時間」に対して同一の「賃金」を払うものだと誤解されている方も多いようですが、本来の意味するところは「同一価値労働」つまり同一の「付加価値」に対して同一の賃金を払うということです。詳しくは、私が社会保険労務士として運営しているメディア「法令×HRM 同一労働同一賃金研究所」をご覧ください。

※2「五十数年前、商業界がスタートしたころ、我が国は殺伐とした人間不信のただなかにあった。混乱のさなかにあっては、一層保身以外の立場を取ることは信じ難いのであった。そんな状況下にあって、商業界ゼミナールは、商いの喜びを伝えようという、まさに百八十度逆転した信条を真正面に掲げて始まったのであった」と、1997年刊行『倉本長治語録』の「はじめに」に記されています。政治や社会への不信・不満がうずまき、先が見えなかった戦後混乱期の状況は、いまに通じるものを感じます。

※3 商業界草創期にあって、創業者倉本長治をささえ、商業界ゼミナールでも主導的な役割を果たしたのが新保民八です。渥美俊一など、その後も商業界には、日本の戦後商業へ強く影響を与えた人物が論者として集いました。

※4 2000年代の商業界では労働争議が深刻化し社内モラルの低下が著しくなっていました。それが私が(商業界精神に立ち返ろうと)グッズプロジェクトを立ち上げた理由でもあり、(それでも社内モラル向上へとはつながらず)商業界を去った理由でもあります(また、その後の社会保険労務士の資格取得にもつながります)。そして2020年、日本中の商人に愛され、影響を与えた商業界は倒産するに至りました。
なお、前述した「店は客のためにあり、店員とともに栄える」には続きがあり、全文は次のようになります。「店は客のためにあり、店員とともに栄え、店主とともに滅びる」「事業(企業)はお客のためにあり、従業員とともある」ということを忘れた会社は滅びる(倒産する)という、未来の商業界の状況を暗示した言葉を創設者の倉本長治が皮肉にも、残していたということになります。

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