Interview

知財で新事業のアイデアを戦力化する~do.Sukasu代表 笠井氏に聞く(前)

「難しい技術でなければ特許はとれない」は大きな誤解――と話すのは、大手企業の知財部門と新規事業推進部でキャリアを積み、現在「視覚認知能力の簡易定量化」技術を利用した事業開発を行う株式会社do.Sukasu CEOと新規事業開発を支援する株式会社Co-Studio CSOを兼務されている笠井一希氏です。自身の特許出願件数も70件以上にのぼる同氏に、特許に関するよくある誤解と新事業に挑戦する際にこそ必要な「知財戦略※1」について聞きました。 

聞き手・構成:メディア「事業革新」編集長 小林麻理

1:知財(知的財産権)には著作権、産業財産権(特許権、実用新案権、意匠権、商標権)、回路配置利用権など様々なものがありますが、本記事では「特許権」を中心に扱います。

特許は「難しい技術に限られる」の誤解

2021年は大きな特許訴訟の報道※2が続いて驚くとともに、下請けや中小企業が大手と対等であるためにも、特許を取得しておく必要性を改めて感じました。笠井さんは、日本企業の特許に対する意識をどのように感じられていますか。
日本における特許出願件数は
30万件以上で推移しており(特許庁集計・下図)、取得件数は世界でも高水準です※3。ですから特許の重要性自体はある程度、認識されていると思います。

出典-経済産業省サイト

 一方で、特許に対しては様々な誤解があると思います。まず、最も大きな誤解の1つが特許は「難しい技術」でなければいけないというものです。しかし、そもそも「特許権」は「発明」に対しての権利で、発明に至るまでの過程が容易か否かによって取得できるかどうかが決まるのです。そのため「難しい技術に限られる」という先入観は誤解です。

そして「発明」とは特許法で「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度なもの」とされています。 

―つまり、法律で言う「高度な技術的思想の創作」=「難しい技術」ではないということでしょうか。
はい。発明までの過程を「想到」といい、特許審査における大きなポイントの1つが「想到が困難」であることです。それを主張するには「技術的に困難」か「着想自体が困難」かのどちらかを満たしていればいいのです(下図)。

22021520日にファーストリテイリングが、同社セルフレジに利用した仕組みに特許権侵害があるとして訴訟された件で、知財高裁で敗訴した旨が報道されました(日本経済新聞)。また、1014日にトヨタ自動車が利用する電磁鋼板に特許侵害があるとして日本製鉄が訴えたことが報じられています(同)。

3GLOBALNOTEの世界の特許取得 総件数 国別ランキング・推移(20216月)によると、2019年の世界での特許取得件数は中国(約40万件)米国(約31万件)に続き日本は3位(約28万件)となっています。 

発想が新しいか?思いつくのが困難か?がポイント

―「困難」の判断基準には、着想(アイデア)の面と技術から見た面の両方があるということですね。着想が困難とは具体的にはどういうことでしょうか?
「そうした考えに至るのが難しい」、つまり「発想が新しい」とか「これまで誰もそんなこと考えていませんでした」ということですね。その対象は「技術」単体とは限りません。 たとえば、私自身が前職で取得した「可動式バッテリー+加速度センサー」という特許は既存技術の「組み合わせ」に関する発明です。 

この発明は、モビリティ分野で電動化が進み、電動バイクなどのバッテリーを利用者が(いまのように充電するのではなく)すでに充電されたバッテリーごと交換する方式が一般化することを想定しています。その場合に必要となるのは、充電スタンドではなく複数の充電済みバッテリーが用意されたステーションです。

そして交換と利用が繰り返されるわけですが、バッテリーは実際に「利用」されるほど性能が劣化します。そこで、効率的に複数のバッテリーを運用するにはその利用状況を把握しなければなりません。その実現方法として(どのように利用されたかがわかる)センサーをつけるというアイデアに着目したのです。

このアイデアは「バッテリーがシェアされて利用される」という前提がなければ、なかなか考えつかないことです。それを踏まえて「着想自体が困難」であるということを論理的に説明し、特許取得に至りました。
 

先行特許で権利を取得し、財産化する

―その組み合わせのアイデアは、バッテリーステーションの要素としてすでに実用化が見えていたのですか?
いいえ。「将来的」に実現することを前提に、企画段階で出願しました。特許出願が一般的に行われているのは研究・開発や製品化を終えた段階です。それに対し私は、その前の企画段階で出願するものを「先行特許」と呼んでいます下図)。研究・開発が終わったもので、実用性のあるものしか出願できない、というのも特許に関する代表的な誤解だと思います。特許審査において「実現性」は問われますが、「実用性」は問われないのです。 

――私も「企画段階」に特許というイメージはなかったです。どのような注意点や利点があるのでしょうか。
まずは、企画段階であっても、仕様レベルのものがしっかりと定まっていて「実現性」が担保されていることが必要です。そのうえで、従来特許よりも早い段階で出願すれば、「権利範囲」が広く取れる可能性が高まります。 

権利範囲とは、特許が保護する範囲のことです。たとえば先ほどの「可動式バッテリー+加速度センサー」の例で言えば、搭載できるのが電動バイクだけでなく、電動自動車や電動バスなども可能としておくことで権利範囲は広がるということになります。

このように企画段階で特許を取得しておけば、将来的にその特許内容を利用した・したいという企業が現れたときに、自らの権利を主張できることはもちろん、ライセンス契約を結ぶこともできます。知財は「モノ」ではありませんが、立派な「財産」なのです。 

中小・スタートアップこそ「知財」意識が必要

―昨今の訴訟例からも特許は自社の権利を守るうえで大事なのはもちろん、その着想自体が「財産」そして、戦力として機能することは意識したいですね。
はい、中小企業やスタートアップこそ、新事業やプロダクトの「企画段階」の特許について意識をより高めてもらいたいです。研究開発後でも企画時でも、そもそも特許を持っていなかったら、知られたとたんに真似されて終わりです。企画(仕様)さえ確定すれば、それをもとに製造・実装することは以前よりもずっと容易になっていて、資金力や技術力のある大企業ならなおさらだからです。 

大企業と中小企業・スタートアップの協業が進んでいるからこそ、企画の段階から常に、「知財化」のポイントと可能性について考えておく必要があります。くわえて、昨今ではモノに関する技術に対象を絞らない「ビジネス関連発明」も増えていますので、特許を考慮すべき範囲は非常に広くなっていると言えます。

―企画時の発想が「財産」になる、しかもその範囲が広がっているということは、肝に銘じておかなければいけないと思うとともに、斬新な発想を持っている新事業の挑戦者にとって夢のあるお話にも感じます。後半はその「ビジネス関連発明」とともに、新事業の挑戦について伺っていきます。 

後編:新事業の不安を知財戦略で自信に変える