新事業の不安を知財戦略で自信に変える~do.Sukasu代表 笠井氏に聞く(後)

新事業を推進するのはみな「不安」。それを知財戦略で「自信」に変えてほしい――と話すのは、大手企業の知財部門と新規事業推進部でキャリアを積み、自身の特許出願件数も70件以上にのぼる笠井一希氏です。現在、「視覚認知能力の簡易定量化」技術を利用した事業開発を行う株式会社do.Sukasu CEOと新規事業開発を支援する株式会社Co-Studio CSOを兼務されている笠井氏に、後半では知財戦略1とともに新規事業推進の際の心掛けについてもお話いただきました。
前編:知財で新事業のアイデアを戦力化する~do.Sukasu代表 笠井氏に聞く(前)

聞き手・構成:メディア「事業革新」編集長 小林麻理

1:知財(知的財産権)には著作権、産業財産権(特許権、実用新案権、意匠権、商標権)、回路配置利用権など様々なものがありますが、本記事では「特許権」を中心に扱います。 

仕組みでも特許を取得できる「ビジネス関連発明」

―前編ではモノに関係しなくても特許の対象となるとお話いただきました。ビジネスモデル特許という名前は聞いたことがあるのですが、具体的にはどのようなものでしょうか。
 ビジネスモデル特許は「ビジネス関連発明」と言われるものです。「モノ」以外とは、たとえば、「データ」や「ロジック(仕組み)」に関する特許です。特許庁では、「ビジネス方式がICT(情報発信技術)を利用して実現する」と定義しています。

「ビジネス関連発明」として有名なのは、アマゾンのワンクリック特許です。ご存じのように、あらかじめ登録してあるユーザー情報とユーザーが購入したい複数の買い物を紐づけてワンクリックで決済できるというのが特徴です。 

特許庁の発表でも「ビジネス関連発明」は日本でも一定数が出願されているということがわかります(下図)。ただし、全体からすれば決して多いとは言えません。

出典-特許庁サイト

―たしかに2019年も「ビジネス関連発明」自体を主要な特徴とする出願件数は7515件で、全体の30万件というボリュームからすると、少ない印象です。なぜでしょうか。
やはり「技術の難易度」のみに着目しがちで「知財」の可能性に気が付かないということは往々にしてあると思います。新しい発想であっても「そんな簡単なことは特許にならない」という思い込みです。

たとえば、前半でお話した「バッテリー+加速度センサー」についても、上司や技術者は「特許審査には通らないだろう」という意見が大半で、出願すること自体にも否定的でした。

「やる」をベースに「やらない」基準を決める

――枯れた技術を組み合わせたイノベーティブな商品はたくさんありますが、技術自体に着目している人は「取るに足らない」と思い込みがちかもしれませんね。
そうですね。ただ、特許の場合はかかる費用面も見えているし、公開されれば少なくともその内容は他社に権利化されることは無いので、その点も上手く主張することで承認を得ていました。結果、私は約3年間で72件の発明を出願することができ、2021年現在48件(約67%)が特許登録済みとなっています。

それに対し、投資が大きく結果が不確実な新事業の推進のほうがはるかに「承認」のカベが高いと言えます。 

―会社員として新規事業の推進をご担当されていた際、ご苦労されたということですね。
 毎週、同じような批判・批評が続く会議に気持ち的に落ち込むことはよくありました。未来に向かって新しいことを挑戦する事業に対して収益の確実性やリスク要因についての議論ばかりしていても、前に進めません。 

現在のような変化の激しいビジネス環境で新事業に挑戦しないほうが「リスク」です。ですから「やる」をベースに「やらない」基準やロジックをハッキリと決めて共有しておいたほうがいいと考えています。 

 たとえば「〇カ月、共感してくれる・技術検証をしてくれるパートナーが見つからなかった」とか「〇カ月、知財を創出できず強みが形成できない」など、誰でもわかる内容です。

新事業への「不安」を知財で「自信」にかえる

―たしかに曖昧で根拠の薄い批判・批評の繰り返しは気持ち的に消耗しますし、不安が募ってモチベーションは下がる一方だと思います。
そもそも、成果がまだ出ていない新規事業の担当者は、みな不安だと思うんですよ。そうした不安を解消するためにも「強み」を明確にし「自信」を意識して形成する必要があります(下図

この際、ぜひ活用したいのが、お話した企画段階の「知財」化の視点です。特許を実際に取得できればもちろんいいですし、そうでなくても知財化に足る着想であるという「強み」が明確化できれば「自信」にもなるからです。 

問われるプロダクト要素に対する「目利き力」

―特許はプロダクトのオリジナリティや強みを改めて見直すきっかけにもなりそうですね。お話を通じて笠井さんの「知財」への思い入れを強く感じるのですが、知財部門の配属は偶然だったのですか?
いえ、私が知財に興味をもったのは大学時代です。専攻はロボティックスでしたが、たまたま受けた知財のセミナーで「知財は基本的には無体物だけれど、財産なので活用していくことが重要だ」という話に衝撃を受けたのです。 

私の父は建築関係でしたし、自分がロボティクスを専攻したのも財産というのは目に見える「モノ」しかないという思い込みがあったからです。 

そうした衝撃から「知財を仕事にしたい」と強く思っていたところ、新卒で知財部の職務特定採用を行っていた前職の総合制御機器メーカーにご縁を得て入社に至った次第です。

―(法律ではなく)ロボティクス専攻とのことで、モノの技術に対する理解素地があったというのは特許を検討する際には大変、強みになりますね。そうした人材はなかなかいないのではないでしょうか。
そうですね。弁理士の方は仕様が固まっていれば、出願に関する業務は行ってくれます。ただし、事業的にどこを出願、権利化し強みを形成すべきかまではサポートしてくれないことがほとんどです。そこが、特許に関する誤解の多さと知財戦略が一般的ではない理由にもなっていると思います。 

知財戦略には法律の知識よりもむしろ、新事業で扱うプロダクトとそれに伴う要素を理解したうえで、「何が重要なのか」を見抜く目がより必要です。(モノが伴わない)「ビジネス関連発明」や(企画段階に出願する)先行特許ではなおさらです。 

―特許取得にはプロダクトのオリジナリティや強みを見抜く「目利き力」が必要ということで、それは新事業の挑戦者にこそ大事な視点ですね。
はい、新事業に挑戦する方には、「先行特許」出願を念頭に 技術的に難しいか、実用性があるか、現時点での経済合理性(特許は20年有効)にこだわりすぎず、自社の知財をビジネスに活かしていただきたいです。そして私個人としても、その支援をしていきたいと考えています。 

―今回、新事業に挑戦する人と企業にとっての「知財戦略」の重要性を改めて実感しました。勉強になる、勇気のわくお話をしていただき、ありがとうございました!

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