新事業を推進するなかで、費用対効果の面から広報・メディア戦略をどのように立てるか迷うことはありませんか。そこで広告費用をふまえ、戦略の立て方の大枠について3+1で整理します。
メディア「事業革新」編集長/合同会社事業革新 制作統括役員 小林麻理
新事業に挑戦する際に必要不可欠な「情報発信」
新事業に挑戦する際、次のように考える方は多いと思います(「事業革新」を立ち上げた私もその1人です)。
・新プロダクトの内容と真価をもっと伝えたい
・立ち上げたばかりの企業・事業を「ブランディング」したい
・新事業を一緒に推進する人材をもっと集めたい
こうした悩みを解決するのは積極的な「情報発信」が重要で、その際に「メディア」利用は有効だということは認知されていると思います。ただ、「メディア」を利用してみたいと漠然と考えつつも、費用面から躊躇するということがあるかもしれません。
そこで、費用を踏まえた具体的な戦略立てが必要なわけですが、その前段階として、まずはネット登場「前」と「後」における「媒体」の変化と捉え方の大枠について押さえておきたいと思います。

なお「媒体」とは「媒介となるもの」で、情報発信の場合は、その発信元と受け手の「間(あいだ)」にはいる存在が媒体で、(マス)メディアも含まれます(下図)。
※情報処理(IT)の世界で「媒体(メディア)」といえば、DVDディスクなど(情報を格納する)記憶装置を連想しますが、出版・広告など「情報発信」の世界で「媒体(メディア)」と使う場合は、雑誌(紙)やTV・ラジオなどをさすのが一般的です。
ネット登場前、広域発信はマスメディアの特権だった
まず、プロダクトや企業の認知・ブランディングのために「媒体」を利用する場合の、主な枠組みを次の3つに整理します(なお「求人」に特化した媒体利用の枠組みに関しては別記事にて改めて説明します)。
① マスメディアという媒体に情報発信してもらう
② 自社でつくった制作物で情報発信する
③ 情報を他人を媒介して発信してもらう

ネットの利用が一般化する前※1、企業が全国に向けて「情報発信」するには、ほとんどの場合①マスメディアに頼らざるを得ませんでした。②自社制作物となると、チラシを配る・ポスター貼るといったかなり限定された範囲になりますし、③人づて紹介してもらうとなると同じく限定された範囲になります(下図)。
そして、顧客接点となる店舗を持つ企業※2以外は、②自社制作物や③紹介を利用しながら営業担当が直接営業するということになります。
この「直接営業」が媒体を利用しないという「+1」の視点です。直接営業のコスト(人件費)は媒体を利用する際の費用対効果を測るうえでも重要な指標になります。
※1紙の雑誌の発行部数が最多だったのは1998年頃と言われており、一般の人がネットを広く利用するようになったのは2000年代以降のことです。40代前半の筆者自身も紙の「フロムエー」「ぴあ」、新聞の求人広告などを頼りにしていました。
※2店舗を持っている場合は、じつはその店舗自体も「メディア」となります。店舗のメディア化はVMD(ビジュアルマーチャンダイジング)なども含め重要な戦略の1つですが、ここでは扱いません。
SNSで広がる企業による情報発信の効果
2000年代に入りネットの普及が本格化、企業は「ホームページ(Webサイト)」という自社起点で全国へと情報発信する手段(媒体)を手にいれます。
そこに更新が簡単なブログサービスが登場し、Webサイトで情報発信するためのインフラ的なハードルは、コスト面でも労力面でも随分と下がりました。
さらに、2010年頃からFacebook、Twitter、InstagramといったSNS(ソーシャルネットワーキングサービス)がまたたく間に浸透するとともに、YouTubeなどの動画投稿サイトの存在によって、「情報発信」の担い手は一気に「一般の人」になりました。

下図は、総務省のSNS利用状況に関する調査結果です。20代の90.4%を筆頭に全体でも7割以上がなんらかのSNSを利用しているという結果になっています。

企業にとっても③他人の口コミ・紹介の力が無視できないほど、大きくなったということです。さきほどの図をWeb・SNSの浸透後の状況にしてみましょう。
WebやSNSの浸透で最大のポイントは、コンテンツが「拡散する」ということです。つまり、どんな小さな企業がつくったコンテンツでも、その「内容次第で」世界中に広がり、見られる・読まれる可能性を持つようになった、というわけです。
マスメディアの広告費用は?効果は?
本記事で見てきたネット前・後の変化は、驚くような内容ではないと思います。一方で、この変化に対し、現実的にどのように対処するかというのは、また別の問題です。
まず、媒体の選択です。以前より小さいとはいえ、いまも①マスメディアでの露出には一定の影響力が期待できます。そこで気になる費用面について見ていきましょう。
TVCMの広告費用
TVCM関しては、費用の基本的な考え方についての掲載があった日テレAD広告ガイドの内容を紹介します。まず、CMは次の3つに分類されています。
タイムCM
個別の番組を提供し、その番組に含まれるCM枠内で放送する広告で、最小単位は30秒、期間は2クール(6ヶ月)
スポットCM
最小単位は15秒で番組に関係なく局が定める時間に挿入されるCM枠内で放送する広告
Smart Ad Sales
15秒1本が日付指定で購入できる新しい枠組みの広告
このなかで詳しい説明のあった「スポットCM」の基本費用の考え方は「1本いくら」ではなく、視聴率の合計(Gross Rating Point:GRP/延べ視聴率)や1GRPあたりの値段を表す「パーコスト」という指標を用いるのが特徴です。
パーコストは、人気(繁忙・相場)によって変わるとのことです。たとえば同じ視聴率15%分を購入したいと思った際、150万円で済むケース(その場合、パーコストは10万円)と、倍の300万円(その場合、パーコストは20万円)かかるケースがあるということですね。
結局、1本いくらなのかは相場次第ということですが、次の例がシミュレーションとして紹介されていましたので1つの参考となりそうです。
化粧品の新製品を発売するA社が3000万円の予算で、とある月の1週間にCMを打つケース。個人全体視聴率パーコスト20万円と仮に設定すると、出稿金額3000万円÷パーコスト20万円=150GRP分が購入できるとなります。
そして、個人全体視聴率でおよそ500GRP投下すれば、CMを視聴者に認知させられるという一般的な広告理論を紹介。それをふまえ(本来、効果を得るためには)、個人全体視聴率パーコスト20万円の場合、予算1億円が必要となる(個人全体視聴率500GRP×パーコスト20万円= 1億円)といった説明があります。
これよりも予算が低くても出稿は可能とのことですが、CMで効果を得るとなると「億単位」のイメージは遠からずというところでしょうか。
新聞の広告費用
新聞広告の料金は、全面タテが15段、ヨコ38cmに対し、1段1㎝単位で設定するというのが業界の通例のようです。
たとえば、販売部数が約186万部(2021年6月時点同社公表数)の日経新聞の基本料金は全国版で1段×1㎝=4万5,700円(2021年9月時点)設定されています。なお朝日新聞(2021年12月時点同社公表数516万部)は全国版・朝刊で同15万6000円です(2021年12月時点)。
そこで、よく見る記事下の3分の1スペースに出稿する場合を単純計算すると、日経新聞では、45,700円×38㎝×5段=868万3,000円、全面広告を出すと45,700円×38㎝×15段=2604万9,000円ということになります。
なお、新聞広告は、モノクロか有色か、日付の指定、記事中・着き出しか、また用途(一般や人材募集、公告)、出稿回数による価格の違いがあらかじめ細かく設定されています。
雑誌の広告費用
雑誌の場合、表紙の裏や記事スペース3分の1部分などを使用した「スペース広告」と「記事広告」という大きく2つのスタイルに分かれます。
記事広告は制作費込みで、編集記事の似た体裁で掲載できる(一方的な広告宣伝に見えない)というのが各媒体のウリになっていることが常です。いわばコンテンツマーケティングの原型とも言えるものです。
ここで、「日経ビジネス(2021年12月時点同社公表価格)」を例にみてみると、表4(裏表紙)スペース広告が380万円、記事広告の基本料金は、白黒1ページが167万円となっています。
また、最近のトレンドであるWebで掲載とセットになっているプランもあります。たとえば「トップに訊く」という記事広告は、「記事体広告2P+日経ビジネス オンラインタイアップサイト(誘導1か月)」で500万円です。
年齢・対象ごとに「効果」は変わる

さて、効果のほどはどうでしょうか。まず、大枠で捉えるために、時事ニュースでもっともよく使った情報源についてまとめた下図をご紹介します※。新聞やネット、SNSについては年齢層によって接し方がまったく異なることが分かります。
※総務省「令和2年度 情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査」の結果より筆者集計・作成
もちろん、これは「大枠」の話ですが、メディア利用に関しては、自社の顧客層となる年齢ごとの利用状況もおおまかでも把握していることが大切です。
新聞・雑誌やWebメディアなどは、個別の「読者層」について各社が提供する「媒体資料」というもので確認することができます。新聞・雑誌の「マス(量)」としての影響力が下がってきている以上、「読者層(質)」の部分で特色がある媒体を選ぶ必要があります。特に(「マス」よりも意思決定権の経営者・キーパーソンに情報を届ける必要性が高い)BtoBの世界ではそれが大変重要であり、専門雑誌の大きな強みです。
マスメディアの二次利用
マスメディアは、一定以上の広報予算があらかじめ確保できる企業にとってはやはり魅力的な選択肢の1つです。マスメディアを実際に見たという人は限られても、「〇〇」に掲載されました!という二次的な利用方法も可能だからです。
ただし「安い」とは言えない価格のため、企業としても思い切った投資判断となることは間違いありません。
なお、PR会社などを利用して、無償で取り上げてもらうよう働きかけるという選択もできます。ただし、無償の場合の掲載(放送)決定権はマスメディア側にあるため、実際に取り上げられるかどうかは保証されないことに注意が必要です。
「露出」は買えるが「共感・拡散」は買えない
一方、「マス」とは反比例するように、存在感が高まるばかりのが③特にSNSなどの「人」が介在するメディアです。
ただし、企業ができるのは魅力的な「コンテンツ」(短い「ツイート」も、じつはコンテンツの1つと言えます)」を「公開」し「露出」を増やすことまでです。その結果、「共感」してもらったり「拡散」してもらえるかどうかはの決定権は「他人」で、企業がこれを購入することはできません。

もう1度、自社制作コンテンツの部分を図で見ておきましょう。
お金で買うことができるのは「露出」の部分です。たとえば、(設定したターゲットに露出を増やす)Facebook広告は500円から始められるなどかなり手軽です。
その結果、「共感」を得られ情報が「拡散」し、それに見合った効果が得られるかは、「コンテンツ」次第と言えます。
そのため③SNS効果をふまえた、ネット時代の「情報発信」戦略のカギを握るのは、②自社制作コンテンツ」の質ということになります。なお、ここでいう「自社制作」とは、内製したものに限らず、自社が主体となって発注したものも含みます。
メディア戦略を整理し、費用対効果を最大化する
このように、何かを「媒体」として、情報発信をしようという際には、全体の戦略がかかせません。そこで、事業を推進するために必要なメディア戦略とコンテンツマーケティングの基礎を学べる講座を「事業革新ゼミ」にてご提供します。ぜひこうした講座の知識をベースに、情報発信の費用対効果を最大化していただけれればと思います。
費用対効果を最大化するメディア戦略とコンテンツマーケティング基礎講座
講座1:3つのメディア分類を理解し、情報発信のスタート地点に立とう
講座2:5つの顧客パターンを理解し、プロダクトの購買につなげよう
講座3:4×4の要素でコンテンツの質を理解し、集客・ブランディングしよう
補講: ChatGPTができることを整理して活用しよう
